ネタバレ注意。
前巻がいまいちだった反動もあってか、この巻はだいぶ粒揃いのように感じました。
その印象の多くを担うのはもちろん長編作、天城一「圷家殺人事件」。華族の館での連続殺人を雰囲気たっぷりに描いて、描写や造形がトガっていて、それがまた古さを感じさせない。千手伯爵の登場シーンとか、古野まほろみたいなエクストリームだった。解決編に至って、事件の核心部分のロジック展開にちょっと精緻を欠くところがあるが、これはまず雰囲気を楽しむべき、それだけの風格を持った作品。
鮎川哲也「呪縛再現」は『りら荘事件』の原型となった中編で懐かしさもあって愉しいが、やはり完成度において長編には二歩三歩と譲るか。アリバイ崩しイラネ。
三編収録の短編の中では豊田寿秋「草原の果て」。こういう戦時下(に限らずだが)の特殊状況モノって、やっぱ問答無用でミステリ魂が疼くよね。舞台立てがそのままケレンだもの。こないだの島田一男作品にも一脈通じるものがあって、こういう選集に求めてるのはまさにこうした先鋭性であるし、さらにはこうした無名作家にこういう作品があるってのが国産ミステリの侮れないところだなあと思います。
評価はB。
- 作者: ミステリー文学資料館
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/03/12
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