amazarashi 『千年幸福論』

1st。
だいぶ前にラジオから流れてきた曲にふと気を惹かれて、曲名もアーティスト名も知らないままその特徴的な詞世界をだけ憶えていて、でもいつかちゃんと聴くこともあるだろうと思ってそのままにしていた、その曲が「古いSF映画」。
ディストピアSFの世界観をメタフィクショナルに展開する高い虚構性と、コーラス部に託される真摯で切実なメッセージの対比。平熱のエモーション、すぐれて同時代的なロックの傑作でした。

僕らが信じる真実は 誰かの創作かもしれない
僕らが見てるこの世界は 誰かの悪意かもしれない
人が人である理由が 人の中にしかないのなら
明け渡してはいけない場所 それを心と呼ぶんでしょ
(「古いSF映画」)

世界観のディテールとそれを表現する言葉の多彩、時に大仰なエモーションを支える音楽としての構築性、その両面での「厚さ」は、このバンド、このアルバムの基調となっていて、ともすれば頭でっかちになってしまいそうなその志向性を見事に美しく、高揚感のあるロックとして導いている。その中でこそ、「古いSF映画」のようなクリティカルな楽曲が成立し得る。

僕らが愛した故郷が 殺されてしまうかもしれない
僕らが待ってた未来は 誰かの筋書きかもしれない
人が人である理由が 人の中にしかないのなら
受け入れてはいけない事 それは君自身が決めなきゃ
(同)

しかし、ここ何度聴いても涙腺が決壊する。
ネガティブな吐き散らしが疾走感を担う「空っぽの空に潰される」や「逃避行」、壮大で美しいスケールを聴かせる表題曲や「夜の歌」、ラストにおいて肯定の灯を燈す「未来づくり」。ビルドゥングス・ロマンのようなひとつの物語を、そうした佳曲たちが紡ぎ上げているようなアルバム全体のたたずまいも、どこかしら自意識を刺激して、懐かしいようでいて、微笑ましいようでいて、きっと多くの人にとって大切な存在になり得るだろう作品だと、自然に思えるものでした。

千年幸福論

千年幸福論