中村一義 『対音楽』

5th。
ソロ名義としては『100s』以来、10年ぶりの。
「ベートーベンの全九曲の交響曲を順番通りに取り入れた」という前情報から、コンセプチュアルでトガった作品を危惧していたのですが*1、なんてことはない、シンプルに素敵な歌モノの揃った、グッドミュージック・コレクションでありました。

ごらん一瞬で崩れかけてた世界に、
また花を咲かせたのは王様ではなく、
君達だって知ってる。
(「ウソを暴け!」)

難解さを抑えた喚起力のある詞に、軽快なメロディと、曲によく見合った安定感のあるアレンジ*2。「ベートーベン」も、(「運命」と「歓喜のうた」以外は)言われなきゃ分からない*3ってぐらいに自然に馴染んで、いいコンセプトワークになっていると思います。
非常にポジティヴ、かつあたたかみを感じさせるアルバムで無条件に好ましいです。ピアノソナタ「悲愴」がドハマりのボーナス・トラック「僕らにできて、したいこと」まで含め、俺は初期(『太陽』までの)中村一義においては「笑顔」に代表されるような、あたたかいポジティヴィティが好きだったなあ、と、自分の音楽嗜好を振り返ったりという他にない体験、それは彼の音楽が間違いなく俺のロックの原体験だからです。
でもだからこそ、本編ラスト「歓喜のうた」に高らかな生命賛歌が感動的だとは認めつつも、「ゲルニカ」のような怒りの歌も聴きたかった、というないものねだり*4もあるのですけれど。
しかしこの作品に関しては、それより大事で、伝えたい思いがあったということでしょう。なにより時代に磨かれた最もラディカルなポップ・ミュージックへのリスペクトは、このアルバムの見事な普遍性に表れていると思います。聴いた人皆にいい音楽と受け入れられるでしょう、きっと。

対音楽

対音楽

*1:なんかコンセプチュアルだとテンション下がらん? 『勝訴ストリップ』の曲順とかさ。

*2:俺バンドサウンドよりソロのサウンドワークのが好きかも…。

*3:そもそもその二曲以外認識してないのだけど…。

*4:タイトルから「ウソを暴け!」に期待したけど、名曲ながらモードが全然違った。