THA BLUE HERB 『TOTAL』

4th。
名曲ってのはイントロからして既に名曲だが、「INTO RAW」のストリングスの響きは既にこのアルバムが「名盤」と呼ばれるものであることを、少なくとも解放される感情とメッセージの前に、厳粛さの中に集中を高めるひとときを必要とする表現であることを教えてくれる。
表現に先立つ祈りのようでもある流麗なイントロの後、力強いドラムが鳴り、そしてラップが始まる。

REUNITED もう一度ここに集まれよ 乾いた想いをぶちまけた1枚目と
心の内側を掘り下げた2枚目と 人生を讃えた3枚目の延長
依然深いままの致命傷 3.11後の列島
燃え尽きながら落ちる流星の 4回目の最接近を知らせよう
(「WE CAN...」)

ちょっと呆然とするぐらいかっこいい…。
もちろん三枚目の延長にある作品ではあるが、同時に一枚目に受けた印象に似ていた。ハイライトを担うのはハードな曲だし、トラックのエッジが立っててよく絡んでるし、種類こそ違うけど尖った言葉がよく聞こえる。それはあの頃とはまったく異なる「乾いた想い」が、言わなければならないことが、それを音楽で表現する必然性があったのだということなのだと思う。2012年の日本に、これは鳴らされなければならなかった音楽なのだ。

無邪気さを求め 邪気に汚れ 言葉と音よ 人の気持ちに生き残れ
降っては溶け 降り積もっては溶けながら 込められた気持ちよ どうか生き残れ
(「FULL MENTAL JACKET」)

ライヴやツアーの日々を描写した曲があり、地元への愛着と連帯をストレートに表現した曲があり、今はいないひとびとへの哀惜が宿る。そうした地続きにミュージック・シーンや政治体制への揶揄があり、巨大な痛みの傷痕があり、そしてこの音楽を聴く「自分自身」たちへの問いかけがある。ネパールのプッシャーやアフガンの米兵の風景ではなく、まさに今ここの現実として。
批判的な目を持つこと、それを自分自身に不断に問い続けること、それを誰かと分かち合うこと、外に向けて発すること、そしてそれによって変わり続けること、それは我々が皆日常の中で行う当たり前の行動でなければならない、すべてはトータルなのだと、確信の力強さが感動的な言葉と音。それを圧倒的な肯定性の下に表現したラスト二曲、「BRIGHTER」と「RIGHT ON」はまさに珠玉。言葉に音に、滾り漲る確信しかない。

陽が当たってく 子供達は笑ってる きっとこれからも沢山のことが変わってく
人を嘲ることすらやらかした俺は 人も変われるってことを憶え残れた
理不尽な災いに胸は痛むが そこで終わりだとはどうしても言いたくない
かけられる言葉は事実多くはない しかし黙って終わっていく程は少なくない
(「BRIGHTER」)

結局HIP HOPはマトモにブルーハーブしか聴き込まなかったので、未だ自分が門外漢であるという負い目が拭えないし、まあそれはロックでも同様なのだけど結局曖昧な印象論しか書けないのがすごくもどかしいのだけど、でもとにかく、俺はこの作品に凄く感激したということが言いたいのです。

TOTAL

TOTAL