花村萬月『守宮薄緑』新潮文庫

ネタバレ注意。
短編集。
ちょっと素晴らしかった。《これがいまの私の最善です》(あとがき、295p)の言葉に偽りなし。
文章の端整あるいは丹精、そのクオリティが抽んでています。那覇の「社交街」(端的には売春窟)を彷徨う、と言うよりはむしろ練り歩く表題作、プロのスケコマシがちょっと「頭のぬくい」ヘルス嬢拾ってシャブ抜いて、いざ売ろうとしてみたら名器すぎて使い物にならない、という「崩漏」などなど、ろくでもない話ばっかりだけど、この文章でやられるとその退廃懶惰が物凄くかっこよく、心地よくさえ感じられます。特に「核」なんて被嗜虐趣味を扱った小説の極北に近いのでは。
あからさまに自伝的な作品に限らず、それぞれに異なるすべての作品で、その社会規範からの逸脱がまったくフィクションじゃないんだろうな、とごく自然に感じさせる作者自身の無頼ぶりも、この作家に限ってはまたこの上なく信頼のおけるところであります。
かっこいいなー萬月。
評価はB+。

守宮薄緑 (新潮文庫)

守宮薄緑 (新潮文庫)