ネタバレ一応注意。
家庭内読書会「古典的名作を読もう」企画、第11回課題本。
これはもう、素晴らしく面白かったです。一年この企画やってきて、間違いなくベスト。
アメリカ開拓史の中で語られる、ある家族の年代記。物語には何か決定的な事件や逸脱*1が語られるわけではないのですが、そうした大文字の「物語」以上の起伏と手応え、興奮が、この小説の内に生きる人々それぞれの「人生」から伝わってきます。
そう、この小説には確かに「人生」が息づいているのです。文学史上屈指のファム・ファタルであろう毒婦・キャシーをはじめとして、キャルやアダム、あるいはチャールズといった「主役」級のひとびとはもちろん、サミュエルやその家族、そして個人的に最も尊敬すべきキャラクタであったリーといった、本来であれば脇に置かれるような人々も含め、それぞれに、確かに生きられた「人生」が。特にサミュエルとリーはともすれば主役をはるかに食って魅力的な存在感たっぷり、この小説の一面の主題であるキリスト教神学的要素、そのシンプルでありながら力のあるメッセージは、彼らによって提示の役割の多くを担われることで、この感動的な喚起力を持ち得ているように思われます。
そうして生きられる人生の、「可能性」と「善性」に対する肯定が、根底に脈々と湛えられているからこそ、「泣かせ」のシーンなどなくても、ふとした描写や言葉がこれだけ心を動し、この大部をあっという間に読ませてしまうのでしょう。これぞアメリカ文学、雄々しさと力強さの中に、繊細な輝きを散りばめた傑作です。
物語は一つしかない。すべての小説もすべての詩歌も、人の内部で善と悪が際限のない戦いを繰り広げていることから生まれる。思うに、悪には絶えざる再生産が必要である。だが、善は不滅だ。悪の顔は常に若く、新しい。善は世界の何よりも年を経ている。
(4巻15p)
評価はA。
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*1:まあキャシーの存在がそうだと言われればそうなんだけど。