小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』文藝春秋

ネタバレ一応注意。
本人が多分相当好きなんでしょうけど、この「チェス」という題材、思考や論理、その「抽象性」の美しさという、作家・小川洋子の主題において、好適すぎるものだと思いました。
「大きくなる」という単語に代表される、老いや死という「滅び」の中で、なお減じない、あるいはより輝きを増すその価値と、美しさ。浪漫的でありながらも節度のある文章に、それが静かに湛えられた佳品です。
廃バス、地下の廃プール、オートマタ。どこかゴシカルでありつつ、仰々しくならないガジェットの配置もさすがの手腕です。
ただ、一部のエピソードに必然性を欠いて見える場面こそありますが…ミイラはあんな目に遭わなくてもよかったんじゃなかろうか。
評価はB。

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ