角間隆『赤い雪 総括・連合赤軍事件』新風舎文庫

ネタバレ特になし。
連合赤軍の山岳ベース〜あさま山荘事件を、新左翼全共闘運動を概観しつつ詳述したドキュメント。
この一連の「事件」に、当時どういう言説があり、さらに現在までどういったものが書かれてきたのかはよくわからないけど、少なくともこの本は一冊の読み物としてよくできているし、力作だと思う。時代の空気も、「彼ら」の人となりも、よく伝わってくる。
以前からこの時代、この題材にすごく興味があって*1。中高通ってた塾の先生が元活動家だったりとかいろいろと接近の契機はあったけど、自分でもこの感興の大元にあるものをよく掴めずにいる。そんな中同時に距離を置いていた部分もあって、実際まとまったものを読むのは初めて。俺は「連合」の意味するところも、以降の「日本赤軍」や「よど号」との関連性・位置付けすらよく理解していなかった。
しかし残酷な仕事である。被害者ももちろん実名で、死に至る「総括」…集団リンチの場面、死体の損傷も描写は精細をきわめる。その迫真性と共に、冷徹な筆の運び、その徹底的な暴露性は特筆すべきだ。「彼ら」が籠った「山」の共同体に、理想や連帯や闘争心、果てはそうしたものへの幻想すらカケラとしてなく、ただただ醜悪で愚昧な相互不信と自己欺瞞、鮮血の狂気と暗黒の閉塞感があるだけだった。筆者が容赦なく暴きたてるのは、まさにそうした、一筋の光をさえ見出せない、虚無的な絶望である。
特に永田洋子に対する悪罵たるや凄まじい。「総括」場面における彼女の描写は、ファルスめいてさえいる。最後まで徹底して非難されるのは彼女一人であるという事実には、だが一抹の違和感もあった。この一連の「事件」において最も唾棄すべき行為の一つであろうと思われる森恒夫の「決着」も、一種の「おとしまえ」として評価されている気配すらある。森は作中たびたびその小人物ぶりを揶揄されるが、吉野雅邦に対するセンチメントの発露まで含めて、「事件」以降、ラスト近辺の記述はバランスを欠いているように思った。
まあ「コエダメのような女」なんて形容初めて聞いたから、よっぽどだったんだろうけど。
評価はB。

赤い雪―総括・連合赤軍事件 (新風舎文庫)

赤い雪―総括・連合赤軍事件 (新風舎文庫)

*1:今一番読みたい本は小熊英二の『1968』です。