andymori 『ファンファーレと熱狂』

2nd。
愛聴しております。前作もかなり聴いていて、期待も結構高かったのですが、十全に満たされましたね。傑作でしょう。
まず、詞の完成度が格段に高くなっていると思うのです。「1984」や「16」、「クレイジークレーマー」あたりは、全文紹介したいぐらいの素晴らしい詞。長くなるので特に気に入った部分を少しずつ。

5限が終わるのを待ってた わけもわからないまま
椅子取りゲームへの手続きはまるで永遠のようなんだ
(「1984」)

どこにもいけない彼女たち 駅の改札を出たり入ったり
変われない明日を許しながら なんとなく嘘をつくのさ
16のリズムで空をいく 可愛くなれない性格で
全然違うことを考えながら 優しいんだねって嘘をつくのさ
(「16」)

クレイジークレーマー 美しさってなんだろうね
お前だよとまでは言えるわけないけれどひまわりを見に行こう
(「クレイジークレーマー」)

時に優れてリリカルで、時にそれを崩して使われる強い言葉。「バグダッドのボディーカウント」なんて、サビで歌われるのは《God Bless America》だったり。この作詞作法は前作の路線をさらに推し進めたもので、結果まず散文詩として高い達成をみせています。
でもそれも、音を含めた楽曲全体の世界観の中での話であることは間違いなく。前作のアンセム、「everything is my guitar」や「ベンガルトラとウィスキー」のようなパンキッシュな衝動性は、基底にはありつつもより抑制が効いていて、フォーク的な叙情性やカントリィ的な人懐こさのフレイヴァが、より洗練されたフォルムを楽曲に与えています。ロックという音楽の喜びが次々と飛び出してくるような作品。前作を僕は「センスある隙間」というような言い方で褒めましたが、この作品の「センス」のありようはより分かりやすく鮮やかです。そして「捻くれた少年性」を体現するような小山田壮平のヴォーカリゼーションも、より軽やかに楽曲を推進していて。やっぱこの声質の貢献度は大きいと思う。
詞を紹介した三曲もとても好きなのだけど、ベスト・アンセムを挙げるとするなら「CITY LIGHTS」と「SAWASDEECLAP YOUR HANDS」が双璧。でも彼らの作中いろんなところで顔を出す、バックパッカー精神というか国際派精神というか、そういう要素をタイトルだけで体現してしまった後者が、よりバンドの本質を表したベスト・アンセムかな。

教えてくれ これから向かう街のこと 治安と言葉と食事と
教えてくれ こんなにも青い空の下みじめになって歩いて眠るよ
パスポートやカードは昨日盗まれた
整形もしたし肌の色もどんどん変わっていって
SAWASDEECLAP YOUR HANDS SAWASDEECLAP YOUR HANDS
行き先なんか知らん 騙されて乗り込んでいくんだ
SAWASDEECLAP YOUR HANDS
(「SAWASDEECLAP YOUR HANDS」)

こないだバックパッカーやってた先輩とインドの話しててジャイサルメールの話が出た時、「やっぱドロップキャンディの雨降ってましたか?」とか訊いたら、当然「はぁ?」つってダダスベリだった僕はだいぶ毒されていると思います。
最近半年ぶりぐらいにレコ屋に行った時、「バンプファンにオススメ」「ラッドファンなら見逃すな」「flumpool(笑)の次はこれだ」(カッコ笑筆者)みたいなPOP付けて売られてる若手バンドのあれやこれやを見てげんなりしてたんだけど、こういう強いインパクトとキャラクタを持ったバンドに出会うと、やっぱりとてもワクワクします。一面のキャラクタである社会性や批評性は、僕にとってはマイナス要素であることが多いのですが、このバンドの場合なぜか気にならない。それはこの作品が、まずなにより単に優れたロックであるということなのでしょう。
このアルバムの売場には、他のバンドの名前はまったく書かれてなかったけど、*1社会的な批評性を宿していながら、僕がそれを純粋なロックの感動として受け取ることのできた、稀有な例の最初が「悪いひとたち」だったことは記しておいていいような気がする。
うん、いいバンドになるよ、絶対。

ファンファーレと熱狂

ファンファーレと熱狂

*1:リバティーンズの存在に関しては洋楽無知を拠り所に無視しますw