《この煙草が終わったのなら》

北森鴻、死去。
このカテゴリは訃報ばっかりかよ、と嘆息。
ええと、僕にとってはとても大事な作家でした。骨董とか、民俗学とか、自分の興味の対象、大きな言葉で言えば「世界」を、その技巧に満ちて自由な筆で広げてくれた作家なので。別に骨董とか民俗学をその後勉強したわけじゃあないけど、それでもそういうものを初めて「楽しい」と思わせてくれた、北森鴻はそういう作家なのです。冬狐堂シリーズも、蓮丈那智シリーズも、もう読むことはできないのかと思うとなんだか脱力してしまいます。
作家としての彼を特徴付けるものは大きく二点あるでしょう。まずは当代随一の、「連作短編」作家としての腕。各編の完成度を保ちながら伏線を散りばめ、ラストでどんでん返しと共に収斂させるその技巧。そしてもう一つ、僕が何より愛してやまなかった、「料理」の描写の錬達。特に香菜里屋シリーズ、僕はこんなに美味しそうに料理を書く作家を知りませんでした。
その意味でやはり、最高傑作は『メイン・ディッシュ』と思います。もしまだ未読の方がいらしたら、もったいない、本格界きっての「花板」の味、是非とも味わわれんことをお薦めいたします。
もっともっと、美味しい作品が読みたかったです。ご冥福をお祈りします。