浅野いにお『世界の終わりと夜明け前』小学館ビッグコミックス

短編集。
「東京」という作品がすごくいい。ロックミュージックにおけるテーゼが、マンガにおいても証明されてしまったよ。

最近じゃ道に迷う事もないけど
最近じゃ道を選ぶこともしないんだよ
(GOING UNDERGROUND 「東京」)

泣けるなあ…。
話は総論に移って。
狂気、ぬるい絶望と諦観、拭い難い閉塞感。そうした「どうしようもないもの」を、極上のリリシズムで描く浅野ワールドが、短編形式でよりその鮮烈さを際立たせている。
しかし…胸を塞ぐ負の要素をまとわりつかせていながらなお、彼のマンガはどうしてこう、せつなく、でもあたたかく心を侵食してくるのだろう。それはきっと、どんなに「僕ら」の世界が狂っていようが、それをすっとぼけてやり過ごすことを自己嫌悪しようが、それを救うのが夢とか愛とか友情とか思いやりとか、普段は笑い飛ばしてしまうような、そんなアツいものであって、でもそれがキラキラとまばゆいものであると、そしてそれは未だ「僕ら」の手の中にあるのだと、彼のマンガが信じさせてくれるからだろう。
端的なのは「夜明け前」とそして「世界の終わり」。マンガ表現におけるリリシズムの極致。そのまばゆい輝きの。

世界の終わりと夜明け前 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

世界の終わりと夜明け前 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)