FREENOTE 『ルート3』

言わずもがなの3rdアルバムです。
LIVEの物販で買って、今まで聴き込んで参りました。聴けば聴くほど名盤の確信が強くなってきましたので、サインしてもらわなかったことを非常に後悔しております。
ポップスとしての先進性とか、才気走ったキレとか、そういう先鋭に彼らの音楽は向かわなかった。長過ぎるリリース・インターバルや、地方でイベントを観てる限りでは一向に上向かない動員。いささか歯痒くもあったこのバンドの歩みでしたが、前作『オトノハトライアングル』からの流れに続いて、このアルバムが獲得した見事な普遍性は、バンドが探究し、磨き続けた表現の揺るぎない「核」を感じさせてくれます。1stはいまだフェイバリットですが、続けて聴けば明らかに、音楽としての表現力、「うた」としての説得力において比較にならない進歩が聴けるでしょう。詞曲両面で、密度が段違いです。
サマータイムブルー」や「ハローグッバイ」における軽やかなポップス・ライティング。「ラストワルツ」や「Drawing」、過度にドラマティックなサビを聴かせるアレンジの妙。また特に「バッテリー」で聴ける低音のボーカルの表現は、かつての不安定がそのまま魅力になったような表現とは180°異なる、ボーカリスト・秦千香子の一皮剥けっぷり。素敵過ぎ。
そして最高にお気に入りの一曲、「ペチカ」。名前をタイトルに冠された、恋に猛進する少女の唄は、千香子さんが常々リスペクトに挙げるいしいしんじへのオマージュ。

自分の足元に、もうずっと前から張られている、澄みきった美しいこの世の氷。
いしいしんじ『トリツカレ男』、新潮文庫版194p)

この曲の導入部、澄み切った鍵盤のアレンジはなにより、この小説の世界観を表現したものだろう。一発で分かってニヤニヤしつつ、サビの重層的な美しさには圧倒されてしまった。ライヴにおける爆発力も非常に印象的な曲でありました。必聴。

どうしてこんな突然に恋は胸叩き出すのだろう
何度でも そのあったかい掌で私に触れていてよ
(「ペチカ」)

千香子さんといしいしんじの魅力について語り合いたい…。

ルート3

ルート3